NEW罹患後症状(後遺症)とともに生きる皆様へ

東北大学大学院 教授
小坂 健 先生

 私は大学院生時代、ネパールやベトナムで、感染症研究のフィールドワークに明け暮れていました。篠田節子さんの小説『女たちのジハード』には、当時の私をモデルにした青年医師が登場します。作中では颯爽とした姿で描かれていますが、現実の私は帰国後、原因不明の熱と激しい倦怠感に襲われ、緊急入院し、 マラリアと仮診断され治療を受けたものの、倦怠感は改善せず、症状は1年以上続きました。「疲労感」「集中力の低下」といった目に見えない症状は、周囲に理解されず、「怠けているのでは」という無言の視線に、身体の辛さ以上に心を痛めたことを今でも鮮明に覚えています。しかし、病気のことばかりを思い詰めるのではなく、目の前の小さな「できること」を一歩ずつ積み重ねるうちに、心身の異常は薄れ、日常を取り戻せました。

 医学の歴史では、、EBウイルスSARSなど、ウイルス感染後に長期的な不調が続くことは知られています。新型コロナウイルスも、世界中で懸命な研究が進み、 原因として「ウイルスの体内残存」「免疫の暴走」「腸内細菌叢の乱れ」「微小な血栓や血管の障害」「神経伝達の異常」など、複数の要因が絡み合っている可能性が指摘されています。残念ながら、特効薬はまだなく、再感染が症状を悪化させるリスクも明らかになっています。

 症状は多岐に渡り、鉛のように重い倦怠感、頭に霧がかかったようなブレインフォグ、嗅覚・味覚の障害。あるいは、立ち上がると脈が急激に速くなり立っていられなくなる体位性頻脈症候群や腎機能の低下、さらには性機能障害など、人知れず悩まれている症状もあるでしょう。

 現在の医療現場では、他の病気を除外する診断プロセスが中心となり、即効性のある確定診断や治療法が見つからないことにもどかしさを感じている方も多いと思います。しかし、漢方薬や、上咽頭擦過療法rTMS療法など、症状を緩和するための模索は続いています。

 信頼できるかかりつけ医だけでなく、SNSなどを通じて国内外の患者会や当事者グループとつながり、「ひとりではない」と感じることも大切な処方箋の一つです。

 かつて「死の病」と恐れられたHIV感染症も、今ではコントロール可能となりました。がん治療も日々進歩しています。世界中の研究者が今、この瞬間も解決策を探し続けています。

 焦らず、一歩ずつ。今は暗闇の中にいるように感じても、必ず回復への光は見えてきます。私たちも、皆様とともに歩み続けます。